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これは北京大学時代わたしの同級生であったT君の話です。留学生のわたしにも入学当初から親切に勉強を教えてくれました。大変真面目で、研究熱心。見た目もよく、話も上手な学生でした。彼には当時付き合っている彼女がいましたが、彼女が日本語を勉強したいということで、彼に頼まれ彼女に日本語を教えるようになりました。 結果彼女と私はものすごく気が合い、今でも大親友です。彼女が日本に来た時、教えてくれた彼の話にわたしはひどく驚きました。(彼女は数年前に彼とは分かれ、別の男性と結婚しています。)

中国の超エリート北京大学生

北京大学の歴史学部修士課程に入学した中国南方出身のT君。わたしやT君が専攻していたのは歴史学部でも近現代史とあって、勉強熱心で、政治意識の高い学生が多く集まっていました。

当時、T君には彼女がいました。T君と同じ広東省出身の彼女(Wさん)は大学生の頃にT君に出会い、彼が北京大学に入学すると一緒に上京してきたのです。彼女は北京のホテルで働いていましたが、日本語も必要だということで、彼から紹介をうけ、わたしが教えることになります。

歴史学部の修士課程は3年です。修了後、わたしは日本に帰国しました。勉強熱心だったT君はそのまま博士課程にいき、研究をつづけていました。その後も優秀だったT君は国費留学で台湾の大学に留学、2年ほど過ごしました。

エリートから詐欺師へ

ところでわたしはT君ではなく、主に彼女のWさんと連絡をしていました。数年後、WさんからはT君と別れたこと、彼女は他の男性と結婚し、カナダに行ったことを聞きました。そして、昨年Wさんが日本に遊びに来て、わたしと久しぶりの再会を果たしたとき、WさんからT君は刑務所にいると驚くべき事実を聞くのでした。

以下彼女から聞いた話です。


T君が台湾留学をしているときのことです。20代後半に差し迫ったWさんは早く結婚したいとT君に言いましたが、彼は留学や勉学のことを優先でなかなか結婚に応じませんでした。それが原因で二人は別れることに。

その後T君は中国に帰国しましたが、それを前後に彼にITに強い友人ができました。その友人とT君は気が合い、二人でサイトを作りました。「貧しい農村の子供たちに支援を!」という寄付を募るサイトです。もともとT君の家もあまり裕福ではなく、子供のころ苦労した経験がありました。そのため貧しい子供たちを支援したいという彼の真っ直ぐな気持ちから作ったサイトでした。

ところが、このサイトに想定外のアクセスが。多くの人からお金が集まるようになります。最初は真面目に運営資金を除いたお金を農村の子供たちのところに届けていましたが、寄付が増えるにつれ、欲がでてきてしまいます。彼はそのお金を自分のために流用するようになるのです。移動は全てファーストクラス、ブランド品を買い集め、その当時付き合い始めた彼女と贅沢な暮らし。。。。いつしか、彼は学校にも通わなくなり、退学となってしまいました。

そのような暮らしが永遠に続くわけありません。寄付したユーザからお金の使途が怪しいという噂が流れると、それは一気に広まります。そして多くのユーザが返金を求めるようになったのです。しかし集まったお金はすでに使ってしまっているので、手元にありません。彼は寄付した人から返金の催促から逃げるために、残ったお金を全て持って、彼女と共に夜逃げするのでした。

詐欺から逮捕されるまで

しかし、そのような生活でうまくいくわけありません。その彼女ともお金で度々ケンカするようになります。そしてある日、逃亡先のホテルで彼女と大喧嘩となります。うるさくわめく彼女にとうとうT君は手が出てしまいました。その時、彼女は、命の危険を感じ、ホテルを飛びだし近くの公安(警察)に駆け込んだのです。

こうしてT君の悪行は明るみにでて、刑務所に送られることとなってしまいました。

なぜ、元カノであるWさんが事件の全容を知っているかというと、彼女も彼の詐欺の被害にあった一人だからでした。彼女は別れたあともT君と友人として付き合っていました。そして彼の活動を知ると、生い立ちを知っている彼女は数十万円寄付したそうです。残念ながらそのお金は彼の贅沢に消え、他のユーザと同様返金を求めましが、返ってきませんでした。彼の真面目さを信じていたのに、大変悲しい思いをしたと言っていました。

なぜ過ちをおかしてしまったのか

わたしも、この話を聞いて本当に驚きました。なぜT君のように真面目で優秀な学生が詐欺師になってしまったのか不思議でした。でもWさんと話をしていくうちにその理由が垣間見えてきました。

Wさんは比較的裕福な家庭で育ちました。貧しい育ちのT君は結婚まで決意できなかったことは、そのことがあったようです。Wさんやその両親はT君との結婚を賛成していたのに、T君は自分の出身に対するコンプレックスによって結婚に踏み切れなかったようなのです。

またWさんが先に社会人になっているのに、T君は自分が学生で先が見えないということに不安に思っていたようです。中国では修士、博士課程の卒業者の就職は、学部生よりも難しくなる傾向があります。特に文系で歴史学部となれば、専門を活かした仕事を探すのは容易ではありません。結局、自分にお金がないというのがT君にとってものすごくコンプレックスに思っていたようです。
(中国人にとって”お金”の価値というのは日本以上に高いようです。また、このブログでも中国人とお金について私感を紹介できればと思います。)

もう一つ中国ならではの貧富の格差の問題です。北京や上海では大富豪いる反面、農村部では未だ貧しく、両親が都市に出稼ぎに行き、酷い時には子供のみで農村部で生活しているような家庭が多く存在しています。大都市の子供たちが高い塾などに行き勉強をしている一方で、貧しい地域の子供たちはその機会を得ることができません。

中国は経済発展はしましたが、社会保障の面ではまだ十分整っていない面があります。病気になっても高額医療費で治療を諦めなければならない人々もいます。ところが近年、メディアやオンラインの発展でそのような人々がメディアで寄付を求める機会がふえました。それが人々の関心を得るようになり、都市部の富裕層や若者がこぞって人助けのために寄付をするようになったのです。そういった意味ではT君のアイデアは素晴らしいものでしたが、資金の管理、監督の仕組みが出来ておらず、私欲を抑えることができなくなってしまったようです。

彼がいつ出所できるのかはわたしは知りません。彼はまだ30代前半。優秀な友人であっただけに非常に残念です。
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